無気力なあざといくんは真面目ちゃんを離してくれない。
善の言い方なのか、耳元でささやかれたからなのな、それともその両方なのか……耳がくすぐったくてゾクッとする初めての感覚。
私から離れていくときに一瞬だけ善と目があった。
……心なしか、優越感に満ちたように見えた。
ドヤ顔? してやったぞ? 的な……。
「じゃあ、俺これからバイトだから」
しかし、善がそう言って「またね」と私の肩をつかんでしれっと私を部屋の外に出したから、その表情の理由はわからなかった。
ーーだけど、その日は寝るまで善のことを考えていた。
考えていたというより、頭から離れなかった。
そりゃあ好きな人だから考えることは当たり前なのかもしれないけど……善が耳元でささやいたからか、自分の耳が熱いような気がしてずっと触っていた。
そのたびに善の顔が浮かんで……。
もしや、私になにか変な魔法でもかけた?
永遠に善のことしか考えられない脳みそになりますように、とか?
耳が熱くなって他に集中できなくなりますように、とか?
そんなくだらないことを想像せずにはいられないくらい、基本冷静でいられる私は善のことでいっぱいいっぱいになっていた……。