無気力なあざといくんは真面目ちゃんを離してくれない。
善は私にくっつけていた顔を上げ、今度は私を見上げてきた。
目が合ってしまい恥ずかしいことに変わりはないが、それ以上そらせない自分もいた。
愛おしい……。
誰かにそんな感情を抱いたことは初めてだ。
「声のちがいがわかるなんて、俺の声よく聞いてるね」
「そのくらい彼女だったら気づくでしょ……」
「反対に、俺も気づいたことがあるんだけど」
「……なに?」
「さっき家の前にいたやつ、ただの同級生じゃないでしょ」
「……」
「俺も凛李のこと好きで隙あらば見てるから小さな変化に気づくよ。なにか、隠してることあるよね?」
善が上目遣いで口角も上がって笑っているのに、話し方にとげを感じるからか怒っているんだと瞬時にわかってしまった。
「……隠す? なにも隠してないよ」
秦くんのことを好きだった過去を知られたくない。
今の私だけを見てほしい。
私の暗い部分なんて見てほしくない……。
そう思ってとぼけてみたけど、善は私から一切目を逸らさず、抱きしめる腕の力も緩めない。
「誰かからじゃなく、凛李の口から聞きたい」
「……」
「凛李の全部を知りたいんだよ、好きだから。どうしても……だめ?」