無気力なあざといくんは真面目ちゃんを離してくれない。
「秦くんは本当に覚えてないんだね」
「……え?」
「小学校のときに秦くんが私の悪口を言ってるの聞いたの。それがすごくショックで、私はもう恋愛なんかしないって決めて、勉強だけできればいいやって思うようになったの」
「……」
「秦くんのことはたしかに好きだったけど、それからはもう会いたくなかった。いっしょにいて落ちつくこともないし、波長があうと思ったこともない」
「……」
「でも、そのできごとがあったから冷静にものごとを見られるようになって、勉強も人並み以上にできるようになったから、それは感謝してる」
ーーちゃんと、自分の気持ちを言えた。
えらいぞ、私。
自分で自分を褒めてあげたい。
……こうして断ったはずなのに、なぜか1歩ずつゆっくりと私に近づいてくる秦くん。
私は後ずさりして距離を保とうとするものの、秦くんのほうが早くて、気がついたら手首をつかまれていた。