無気力なあざといくんは真面目ちゃんを離してくれない。
善はそう言って、人目もはばからず私のことをそっと抱きしめた。
駅近のため、多くの人が通る道。
「これは、家でやればいいんじゃないの?」
「家でやったら抱きしめるだけじゃ終わらなくなるよ。いいの?」
「……それは……だめ」
「でしょ。だから我慢できる外にわざわざ来たんだよ」
よくよく考えたら結構はちゃめちゃなことを言ってるけど、このときの私は会いにきてくれたうれしさと抱きしめられているというドキドキで正常な判断ができず、善の言うことに納得してしまった。
私たちは手をつないで電車に乗って帰った。
秦くんと話したことを善に伝えると、善は一言「よかったね」とだけ口にした。
きっと、私より善のほうが不安が大きかったにちがいない。
それなのに、それをあまり表には出さず、ずっと私の気持ちを最優先してくれた。
善には本当に頭が上がらない……。