無気力なあざといくんは真面目ちゃんを離してくれない。

「……なに、それ」



きっと予想していなかっただろう。
善の口がポカーンと開いている。
こんな間抜けな姿、初めて見た。



「なにって、お願い叶えただけだよ」

「こんなずるいのお願いしてない」

「なら、取り消す?」

「できないし、したくない。脳裏に焼きつけとく」

「そこまでしなくても……っ」

「疲れたら今日の凛李を思い出してがんばるね」

「……それなら、よかったです……」



なんにせよ、今日は私がちょっとだけ善に勝てた気がする……。
完全な自己満足だけど。
……それでも、善の見たことのなかった表情を見れてうれしかった。



「最後にもう1回」

「だめ」

「なんで」

「さっきのは勇気を振り絞ってのやっとの1回だったの。それに、たまにしかしないほうが特別感あっていいでしょ」

「ケチ」

「ケチで結構です。ほら、ご両親待ってるんだから行こう」



はっきりとなんて言ってるかわからないくらい小さな声でぶつぶつと文句をつぶやく善を見て見ぬ振りして、私は善の腕を引き、家へと向かったーー。

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