無気力なあざといくんは真面目ちゃんを離してくれない。
「ひゃ……っ!」
「うぉ……っ」
私も善もおどろいて、私が後ろによろついた瞬間、善が片手で受け止めてくれた。
「ありがと……」と言いながらも目が合ってしまい、なんだか気まずい空気が流れる。
「じゃあ、真剣に考えておいてくれよ」
「はい」
善の担任の先生も理科室からいなくなり、本当にこの場に私たち2人しかいなくなってしまった。
「さっきの話、聞こえちゃった」
「ただの提案だから」
「なんで先生の知り合いのところに決めないの?」
「……え?」
「だって、善にとっては最高の環境なわけでしょ? そこで学べばたくさんのことを吸収できるかもしれないじゃない」
「でも、県外だよ。今住んでるところらへんからは通えないから、そっちの近くで1人暮らしすることになる。たぶん、新幹線で2時間とかの距離」
「それでも、紅茶を学ぶことが、カフェ経営が、善の進みたい道なんでしょ? それならそれを追いかけたほうがいいんじゃない?」