バースデーカード
この空間だけいつも通りで、平和で、血なまぐささを感じさせない。


それが異質だった。


「ここで8人で過ごしたんだよな」


和樹が呟く。


その言葉で、一瞬にして楽しかった毎日のことを思い出してしまった。


あたしも若菜も和樹も、みんなみんなこの教室の中で仲良くなって、いろんな物語が生まれた。


若菜は新に恋をして、あたしは和樹に恋をして。


そんな毎日がずっと続けていくと信じて疑うことも知らなかった。


「新が教科書もノートも全部忘れてきて、大変だったことがあるよね」


若菜が新が使っていた机の前に立って言った。


そういえばそんなこともあったっけ。


あれは6月上旬のころだった。


梅雨入りして間もなく、毎日蒸し暑くて集中力も散漫になるような季節。


『はよー』


眠そうな目をこすりながらC組に入ってくる新。


そんな新を見て若菜はほほえましそうに笑顔を見せる。


でも、その笑顔はすぐに消えて驚いたように目を見開いていた。


『新、鞄は?』


若菜にそう聞かれて新は瞬きを繰りかえした。


『やべ、全部忘れてきて』


右手を口に当て、驚きの表情を浮かべる新。
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