バースデーカード
『旬。先生が来てくれたよ』


ある日お母さんの後ろから担任の先生が入ってきた。


先生はかごに入ったフルーツを持っていて、ゴクリと唾を飲み込んだ。


お見舞いの品の中ではかご入りフルーツが一番好きだった。


特に大きなメロンが入っていると最高だ。


途端に病室に甘い匂いが広がり、病人を寝かせておくだけの無骨な室内に彩りが生まれる。


俺はフルーツの匂いをめいっぱい吸い込んだ。


ほとんど会ったことのない先生だけど、俺の好みを知っているのかもしれない。


かごの中からメロンの匂いがしてきていた。


『こんにちは旬君。調子はどう?』


先生は椅子には座らず、身をかがめて聞いてきた。


『変わらないです』


俺は短く答える。


運ばれてきた日以来苦しくなることはなかったし、自分ではとても元気なつもりでいる。


でも退院できないということは、まだどこかが悪いのだろう。


だけど自分ではどこが悪いのかわからない。


だから返事も短くなってしまう。


決して悪気はなかったのだけれど、先生は少し悲しそうな表情になって『そう』と言っただけだった。
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