バースデーカード
それからも入院生活は続き、2年生に上がる春のころ。


俺はようやく退院が許された。


何度か自宅に戻ってはいたけれど、ちゃんと退院という名目がついたのはこれが初めての経験だった。


病室で着替えをして荷物をまとめている間も、まだ信じられなかった。


『ねぇ、僕はもう家に帰れるの?』


準備をしているお母さんに何度もそう質問して、何度も『そうよ。よかったわね』と言ってもらえても、まだ実感はわかないままだった。


退院前、両親は担当の先生から日常生活の注意点を聞いていた。


激しい運動とか、しっかりした睡眠を取ることとか、あまり食べない方がいい添加物とか。


俺にとっては理解できない、難しいことばかりを教えられていた。


両親はそれを熱心に聞き、病気についての冊子を貰い、ようやくその時間がやってきた。


俺は両親に挟まれるようにして病室を出た。


廊下には新が待ってくれていて、『おーい!』と、手を振っていた。


思わず駆け出しそうになったけれど、思いとどまった。


さっき先生に言われたばかりだ。


走ったり飛んだりしちゃいけません。


無理なことをすると、また入院することになるからねと。


その言葉を思い出したから、俺はゆっくり歩いて新に近づいた。
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