バースデーカード
ドナーは現れなかった。


代わりに現れたのは見たことのない男だった。


ガッチリとした体躯に、黒い上下の服。


更に黒い帽子を深く被っていて、顔はハッキリ見えなかった。


一瞬担任の先生だろうかとう疑ったけれど、それは違うようだった。


『旬くんだね?』


男の声はマスクもつけていないのにひどくくぐもっていた。


俺は怪訝な表情で男を見上げた。


『誰……?』


『俺は君のファンだよ』


男はそう名乗った。


今までも時々、俺のファンを名乗る人たちが病院にやってきたことがあった。


どうやって病院を突き止めたのか知らないが、今はネットを駆使すればどんなことでもできる時代だ。


でも、そうやってここまでやってきても受付で追い返されることが主だった。


決して怪しい人間が院内に入ることはできない。
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