バースデーカード
でもこの男はいとも簡単に受付を超えてここまで来たみたいだ。


だから知り合いだろうかと最初に疑った。


『君は死ぬのかい?』


その質問に俺は大きく目を見開いた。


同時に笑いがこみ上げてくる。


そんな質問をされたのは初めての経験だった。


こんな失礼な見舞客、今まで見たことも聞いたこともない。


『たぶん死ぬよ。このままドナーが現れなければね』


『ドナーがいれば、君は生きられる?』


その質問に俺は頷いた。


でもその可能性は低い。


俺の体に移植できる臓器を持った人間が脳死状態に陥る。


それはとんでもなく低い確率だった。


しかも、ドナーを待っている患者さんは沢山いる。


誰かが死んだからと言って、真先に俺のところへ連絡が入るわけではなかった。


男が視線を移動させて、なにかに気がついてように半分口を開いた。


男の視線を追いかけると、そこには写真が飾られていた。


中学2年の誕生日の日、ここで新と一緒に撮った写真だ。


『あれは、1冊目の表紙になっていた写真だね?』


『あぁ』


『一緒に映っているのは?』


『俺の弟。双子なんだ』
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