バースデーカード
説明すると今度は大きく目を見開いて俺を見てきた。


その目は落ちくぼんでいて、目の下には真っ黒なクマがある。


一目見て異常だと感じられた。


咄嗟にナースコールに手を伸ばしたが、男が俺の手を掴んで静止していた。


額に嫌な汗が流れていく。


今さらながらわけのわからない男を病室へ入れてしまったことを後悔しはじめていた。


同時に、どうせ近々死んでしまう自分の命だ。


少しくらい面白そうな相手と会話をしてもいいだろうと感じた。


『双子なら、きっと君の体に合うだろうね』


その言葉に俺は『え?』と聞き返した。


男は俺を見下ろしている。


その目に吸い込まれてしまいそうになり、慌てて視線をそらせた。


『弟は健康かい? 君と違って、明るい毎日を歩んでいるのかい? それって不公平だよな。君はこんなに苦しんでる。次にいつ発作が起きるかわからない。ドナーが現れるかどうかもわからない。そんな真っ暗な世界にいるのにさ』


途端に男が饒舌になった。


俺は恐怖心を抱き、男の手を振り払おうとする。


しかし、あまりに力がなくて手をふりほどくこともできなかった。


『奪ってしまおうよ』


『奪う……?』


聞き返す自分の声がカラカラに乾いていた。


汗で入院着が濡れて気持ち悪い。
< 166 / 180 >

この作品をシェア

pagetop