バースデーカード
新は無事高校に入学した。


第一志望の三草高校に決まったそうだ。


俺は時々あの男のことを思い出した。


朦朧とした意識の中で話しかけてきた男。


俺のファンだと名乗り、新から臓器をもらえばいいと言った。


それからもう何か月もたっている。


あの男は俺の妄想だったのか、それともただ嘘をつかれただけだったのか。


とにかく新が元気に学校に通っていることで安心していた。


俺は相変わらず入院中で、ドナーを待っている。


そんな日々がこれからもずっと続いて行くと思っていたのに……。


『旬、しっかり聞いてほしいの』


ある日の午後、お母さんが真剣な表情でそう言ってきた。


『なに?』


俺は窓の外を見ていたが、視線をお母さんへ向けて聞いた。


『さっき、新が交通事故に遭ったの』


『え?』


『今緊急手術をしているけれど、おそらくはダメだって……』


お母さんの声が震えていた。


俺はなにを伝えられているのかわからなかった。
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