恐怖ダウンロード
「あたしたちは愛子の様子を見に行くので」


夢は早口でそう言うと、逃げるようにエレベーターに乗り込んだ。


エレベーターが締まる寸前、靖の両親が顔をあげた。


泣きはらして真っ赤になった目と視線がぶつかる。


なにも知らないはずなのに、その目はすべてを見透かしているように見えてドキリとした。


でも、そんなはずはない。


あのアプリのことは夢しか知らないし、他の人はダウンロードできないものなのだ。


そう思った時、靖の両親がこちらへ向けて深く頭を下げてきた。


それはまるで『今まで靖と仲良くしてくれてありがとう』と、伝えているように見えた。


そしてドアが閉まり、エレベーターは動きだす。


ホッと息を吐きだした瞬間、夢がせきを切ったように笑いだした。


あたしは驚いて夢を見つめる。


「あはははは! 靖のやつ死んだんだってさ! ざまぁみろだよね!」


夢はお腹を抱え、目に涙を浮かべて笑う。


「夢……」


夢の涙は本当に笑いすぎての涙だろうか?


一瞬でも靖のことを好きだったはずだけど……。


もしかして、無理して笑ってるんじゃないか?


そんな気がして、チクリと胸が痛んだのだった。
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