人権剥奪期間
「どうしよう、あたし……」


「なんで!?」


あたしの言葉をさえぎるようにお母さんが叫んでいた。


その声は家を揺るがすほどの大きさで、妹が驚いて動きを止めた。


「どうした?」


お父さんが近づいてきて、そしてすぐに目を見開く。


次にあたしの横に座り込んで右頬の数字を指先でこすり始めた。


「マジックかなにかで書いたんだろう? お父さんたちを驚かせようと思ったのか?」


言いながらもお父さんの声は震えている。


あたしの頬をこする力は強く、すぐに頬が痛くなってきた。


「なかなか消えないな。いったい何で書いたんだ?」


消えない数字にお父さんの声がかすかに震え始める。


「お父さん……」


気が付けば視界がゆがみ、涙がこぼれていた。


「大丈夫。こんなのお父さんが消してやるから」


そしてまた力を込めてこする。


頬はヒリヒリしてきていた。


「ダメだよお父さん。その数字、消えないの」


あたしはお父さんの手を自分の手で包み込むようにしてとめた。


動きを止めたお父さんの手が微かに震えている。


両親の顔を見なくてもそれが青ざめていることは安易に想像できた。


「どうしよう……あたし、商品に選ばれちゃった……」


自分で呟いたその声が、どこか遠くから聞こえてきたように感じられたのだった。
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