人権剥奪期間
「お願いです助けてください。殺さないでください」


震えながら情けなく懇願するしかなかった。


視線は自然と作業台の上に置かれた一の遺体へ向かってしまう。


あたしもあんな風に食べられてしまうんだろうか。


そのとき先生が目の前で大きなゲップをした。


「悪いけど、生きている人間を食べたいとは思わないんだ」


先生はそう言うとあたしから手を離した。


咄嗟に逃げようとしたけれど、腰が抜けてしまったようでその場に座り込んでしまった。


「死んだ人間なら食べるけどな」


そう言って先ほどまで座っていた席へと戻っていく。


そしてまた黙々と一の体を食べ始めたのだ。


あたしは唖然としてそれを見つけていた。


とにかく、先生はあたしに危害を加える気はなさそうだ。


もちろん油断はできないけれど……。


あたしはどうにか立ち上がり、ヨロヨロとドアへ向かって歩いた。


廊下に誰かいるかもしれないと思い、少しだけドアを開けて確認する。


暗がりの中月明かりだけじゃよく見えない。


「他の先生たちは狩が目的だから、気をつけたほうがいい」


後ろから声をかけられて振り向いた。


先生は相変わらず食事を続けていて、こちらには視線も向けていない。
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