人権剥奪期間
「ずっと保健室にはいられないよね」


あたしはチラリと聡介へ視線を向けて言った。


「それは無理だと思う。けが人をひとり置いておくことはできても、全員がここにいたら絶対に捕まる」


大志はそう言いきった。


「そうだよね……」


あたしは肩を落として言った。


昨日だって同じ理由で保健室から出たのだから、今日は安全というわけにはいなかい。


わかっていたけれど、聡介と離れるのが嫌だった。


すると聡介がベッドから立ち上がろうとしたのだ。


ゆっくりと、しかし、しっかり両足を地面につけて立つ。


それを見てあたしは目を見開いた。


聡介は少しつらそうな顔をしているけれど、確かに立てている。


「昨日に比べれば回復してる。俺のことは心配しなくていいから、みんな逃げてくれ」


それはあたしだけに向けられてものじゃなくて、ここにいる全員に向けられた言葉だった。


「言われなくても逃げる」


短く答えたのは花子だった。


その声色は突き放すように冷たいけれど、聡介が回復しているのを見て安心した雰囲気になった。


それからも、全員で固まって逃げたり隠れたりしないこと。


できるだけ鍵のかかる場所を見つけて逃げ込むこと。


襲われて動けなくなったらメッセージで連絡を入れることなどを約束とした。


これだけ決めたって、逃げ切れるとは限らない。
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