人権剥奪期間
☆☆☆

この日も屋上は平和だった。


こちらから出て行かない限り誰もこない。


でも、いつまでもそうしているわけにはいかなかった。


「俺、ちょっとトイレ」


授業時間中、大志がそう言ってテントから抜け出した。


片手にハンマーを握り締めて屋上の鍵を空ける。


誰もいないのを確認して階段を降りていったと思った矢先のことだった。


途端に廊下から大志の悲鳴が聞けてきたのだ。


あたしと花子は目を見交わせてドアへと駆け寄った。


そこで見たのは腕を切りつけられた大志が階段を駆け上がっているところだった。


「大志。どうしたの!?」


それに答える余裕もなく駆け上がってくる大志。


手を伸ばせば届く距離だ。


そう思った瞬間、大志は誰かに足をつかまれ転倒していた。


「やめろよ! 離せ!」


大志の足をつかんでいるのは大柄な生徒だった。


「ははっ! ちょっとトイレに行こうと思って教室を出たら商品になったお前がいるんだもんなぁ。まじでラッキーだぜ!」


男子生徒はカッターナイフを握り締めている。


あれで切り付けられたのだろう。


「大志、ハンマーは!?」


「んなもん、どっか行った!」


必死に逃れようともがきながら叫ぶ大志。


突然襲われて手放してしまったのかもしれない。
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