人権剥奪期間
☆☆☆

今日は月明かりが出ていたため、廊下は比較的視界がよかった。


3階のトイレ近くには血の痕が残っている。


きっと、大志はここで最初の攻撃を受けたのだろう。


血痕をそのままに更に2階へと降りる。


2階は平穏で、なんの物音も聞こえてこなかった。


でもそうなると、今日先生たちがいるのは1階かもしれない。


そう思うと足がすくんで動かなくなってしまった。


保健室くらいしか聡介をゆっくり休ませる場所もないのに、どうすればいいだろう。


「そこはどう?」


考えているときに聡介に声をかけられて、あたしは顔を上げた。


聡介が提案した部屋は相談室だ。


2階の角部屋で、生徒たちの悩みを聞くカウンセリング室のようなものだった。


ここなら確かソファがあったはずだ。


ベッドまでとはいかないけれど、体を休ませることくらいはできる。


そう判断してドアを開けたときだった。


足音と話し声が1階の階段から上がってきていることに気がついたのだ。


「あいつらどこに隠れてるんでしょうね」


「屋上ですよ。3年の桐生が今日ひとり仕留めたでしょう」


「死んだのは2年の宇城でしたか。あいつら同じ柔道部でライバル同士だったから、絶対に桐生は宇城を狙ってると思ってたんですよ」


笑いながらそんな話をしている教師たちに腹立たしさを感じる。


でも今はかまっていられない。


あたしは聡介と一緒に相談室に滑り込み、すぐに鍵をかけた。
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