人権剥奪期間
☆☆☆

たとえばこの物語が恋愛小説なら。


考えるな。


走れ!


たとえばこの物語が青春小説なら。


そんな理想はここにはない。


走れ!


きっとどこかに光があった。


光なんて求めるな。


走れ!


たとえつらい結末でも、きっと救いがあった。


救いがなくてもあたしは行く。


大切な人がきっとそこにいるから!


1年B組だけ明かりがともっていた。


あたしは戸惑うことなくそのドアを開け放つ。


「聡介……」


教室の机や椅子はすべて運び出され、空っぽになった教室の真ん中に聡介が立っていた。


その手足には鎖がつけられ、その先は鉄球がついていた。


聡介の頬は腫れ上がりあちこちから血が滲んでいる。


その姿に下唇をかみ締めた。


聡介をこんな風にするなんて許せない。


一歩教室へ足を踏み入れたとき「来るな!」と、聡介が叫んだ。


きっと教室内には武器を持った先生が隠れているのだろう。


だけどそんなこと関係なかった。


あたしは聡介を助けたい。


ただそれだけだった。
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