人権剥奪期間
☆☆☆

自分の席に戻ると机の上にラクガキがされていた。


《淫乱女》


《ブス》


《ブリッ子》


マジックで書かれたそれらの文字に一瞬胸が痛んだ。


普段からこんな風に思われていたのかもしれない。


ただのストレス発散で書いてみただけかもしれない。


とにかく、人権剥奪期間中はこのくらいのイジメは当たり前にありそうだ。


教科書を取り出すとそれは綺麗なままだったのでひとまず安堵した。


しかし、胸の中にはすでに真っ黒な澱が沈殿し始めている。


このままの状態が一週間も続くのだと思ったら、気が来るってしまいそうだ。


そんな中、数学の先生が教室に入ってきた。


授業だけはちゃんと進んでいくことがなんだか妙に感じられる。


もちろん授業内容なんてちっとも頭に入ってこない。


休憩時間が近づくにつれて鼓動が早くなり、逃げ出すためのドアに視線を向かわせる。


「北上。次の問題を答えてみろ」


先生に当てられてあたしは大きく息を吐き出した。


教科書を手に持ち、黒板へと向かう。


クラス全員の視線が自分へ向いている。


その視線のひとつひとつが槍となってあたしの体を突き刺しているように感じられた。


緊張で汗をかきながら黒板に解答を書いていく。
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