人権剥奪期間
☆☆☆

保健室の鍵は開いていたけれど、誰の姿もなかった。


あたしたちは勝手にタオルを借りて全身を拭き、体操着に着替えさせてもらった。


もしもの時用に制服や体操着にはストックがあるのを知っていた。


体操着を選んだのは動きやすいからだ。


「お前に、隣の家の人が商品に選ばれたんだ」


ベッドに座って今後のことを考えているとき、聡介が言った。


「え?」


「5年くらい前の話だ。そのお兄さんは俺よりも7つ上で、当時18歳だった。人権剥奪法にひっかかるギリギリの年齢で、もう選ばれることはないだろうって思ってたのに……」


そこで言葉を切ってうなだれる聡介。


当時の様子を思い出しているのか、眉はきつくひそめられている。


「俺、そのお兄さんが商品になってからも何度か会ってたんだ。兄弟や、近所の人にバレないようにこっそり。その時聞いた話だと、商品になった人間の日常範囲は極限まで狭められるらしい。しかもこの警告音は無秩序に鳴り始める。商品になった人間を躍らせるためだけの装置だって言ってた」
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