人権剥奪期間
「俺は、舞の親はあえて突き放したんだと思うけどな」


一が呟くように言った。


「あえて、ですか?」


聡介が聞き返す。


「そう。他に沢山兄妹がいたんじゃ舞も満足に逃げられないだろ。家にいるより外にいたほうが安全だと思ったのかもしれない」


「確かに、あたしの家にはまだ赤ん坊の妹もいます」


「だろ? どうしてもそっちに手がかかって、舞を守ることもままならないって考えたのかもしれない」


「そうかもしれないですね……」


一の持論に舞の頬がほんのりと赤く染まる。


その様子を見て花子がかすかに笑ったのがわかった。


「どうしたんだよ花子」


一が声をかける。


「別に、なんでもない」


「お前もこっちにきて、会話に加われよ」


「あたしはいいよ。話すことなんてないし」


そう言って膝と膝の間に顔をうずめてしまった。


「話すことがないなんて、そんなことないだろ。こんな状況なんだから、もっと協調性を持てよ」


一は花子に近づき、根気強く話しかけている。


元々面倒見がいい性格をしているのかもしれない。


花子はどうにか顔を上げるとあたしたちを見つめてきた。


その目はとても深くて黒くて、なんだかたじろいでしまう。


「あたしの両親は、あたしが商品になったことを知らないかもしれない」


その言葉にあたしたちは目を見開いた。


子供が商品に選ばれて、それを知らない親なんているだろうか。
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