人権剥奪期間
「そのときには一さんはどこにいたんですか?」


聞くと、一は今朝のできごとを説明してくれた。


「俺は最初学校に来ないつもりだったんだ。こんなことになって、外になんて出られないと思ってさ。だけど登校時間になっても家にいることで、警告音が鳴り始めたんだ」


一は忌々しそうに表情をゆがめる。


学校に行かないという選択肢もあたしたちには与えられていなかったのだと、初めてわかった。


「仕方なく学校に来たけど、ホームルームで商品が発表されることは知っていたし、どうにか教室にいなくていい方法がないか考えてたんだ。そんなときに、花子がこの教室に入っていくのを見た。空き教室に入る生徒なんてほかにいないし、まさかと思って後を追いかけたんだ。そしたら、花子も商品になったって言うから驚いて、それからずっとここで隠れてる」


一と花子の2人は登校してきからずっとここにいたらしい。


「授業に出なくても警告音は鳴らないんですか?」


聞いたのは聡介だった。


「あぁ。それはセーフだった。なにがよくてなにがダメなのかわからないけど、とにかくずっと隠れてたんだ」


さっき外へ出ようとしたら警告音が鳴った。


だけど授業に出なくても警告音は鳴らない。


そう考えたとき、一瞬にして背筋が寒くなった。


教室内に商品がいる場合、つかまるのは時間の問題だ。


下手をすればそのまま殺される可能性だってある。


でも、そんなにすぐに殺してしまったんじゃあ商品の意味がない。


ある程度逃げられるように設定されているのかもしれない。


でもこの考えは口には出せなかった。


国の卑劣な考えがまだまだ出てきそうだったし、考えただけで気分が悪くなってきてしまうから。
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