人権剥奪期間
心臓がドッドッドッと駆け足のように鳴り、そのたびに全身に熱い血液が送られる。


呼吸音が外に漏れないよう両手で口をふさいで、深呼吸を繰り返した。


数分して落ち着いてくると耳を済ませて外の様子を伺った。


廊下から話声が聞こえてくるけれど、なにを言っているのかここまでは聞こえてこない。


トイレの中にも人の気配は感じられなかった。


あたしはスマホを取り出すと聡介にメッセージを送った。


《恵美:聡介大丈夫? 返事ください》


すでに開放されていればすぐにでも返事が来るはずだ。


しかし、画面をジッと見つめていても既読も付かない。


焦る気持ちが先に立ちもう1度同じ文面でメッセージを送る。


少し待ってみてもそれにも既読はつかなかった。


普段ならそれほど気にしないのに、今は状況が違う。


あれだけの人数に囲まれていたのだ。


もしかしたらうまく逃げることができなかったのかもしれないと、不安は膨らんで行く。


だけど今外へ出るわけにはいかなかった。


そんなことをして捕まってしまったら、せっかく聡介が逃がしてくれたのに台無しになってしまう。


「どうか、無事でいて……」


あたしはスマホを胸の前で抱きしめて、願うように呟いたのだった。
< 69 / 182 >

この作品をシェア

pagetop