人権剥奪期間
「骨折まではしてないみたいね」


聡介の足を診ていた先生の言葉にホッと胸をなでおろす。


「それじゃ、歩けるんですね?」


「えぇ。でもしっかり休ませないとダメね」


先生は切り傷や擦り傷の手当てもしてくれている。


ありがたいけれど、休ませている暇がないのも事実だった。


「休憩時間だ」


花子が呟いたことでチャイムが鳴っていることに気が付いた。


保健室のチャイムの音は最小に絞られているようだ。


またみんながあたしたちのことを探しているかもしれない。


そう思うとやっぱり背筋が寒くなった。


「6時間目が終わったら放課後になるけど、そうしたらどうなるんだろう?」


あたしはつい、心配事を口走ってしまった。


すべての授業が終わるまであと1時間ほど。


掃除時間とホームルームを入れると1時間30分くらいか。


その後は放課後になり、実質休憩時間と変わらない時間が来るんじゃないかと考えてしまったのだ。


そうなると、どう考えても逃げ道はなかった。


トイレの個室も、空き教室も、どこにいても簡単に捕まってしまうだろう。


「先生。全校生徒が帰るまでここにいさせてください」


そう言ったのは花子だった。


あたしは驚いて花子へ視線を向ける。
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