人権剥奪期間
☆☆☆

6時間目の授業が終わりを告げるチャイムが鳴る。


その音を聞いたとき、あたしはそっとカーテンを開けて外の様子を確認してみた。


生徒たちがホウキや雑巾を手にして廊下に出てきている。


「先生、保健室も掃除しますよね?」


ふと思い出して声をかけた。


たしか保健室や移動教室の掃除は保険委員や、部活で教室を使っている生徒たちの役目のはずだ。


「えぇ。でも大丈夫だからあなたたちはここに隠れてて」


先生はそう言って残りのベッドを指差した。


保健室には3つのベッドが置かれていて、その1つの聡介が使っている。


「カーテンを引いておけば誰も見ないし、私もずっとここにいるから」


「……今日だけでも掃除をやめさせることはできないんですか?」


花子が聞く。


確かに、掃除自体をやめてもらうことができれば一番安心だ。


しかし、それに関して先生は渋い顔をした。


「さすがに、そんなことをしたら怪しまれると思うのよ。商品になっても日常を送らないといけない。あなたたちもそう伝えられているでしょう?」


聞かれてあたしは返事に詰まった。


「大丈夫。心配しなくていいから」


先生にそう言われると、あたしたちはそれを信じて頷くしかなかったのだった。
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