人権剥奪期間
あたしたちがベッドスペースに隠れてすぐ、保健室の掃除当番になった3人がやってきた。


先生と仲がいいのか、ずっとおしゃべりをしながら掃除をしている。


あたしは花子と一緒にベッドの上に座り、その会話に耳を傾けた。


「今日はびっくりしたよね! この学校に6人も商品がいるんだもん!」


「本当だよね。全国で500人なのに、すごい確立だよね」


「でもちょっと可哀想だよね。カップルで商品になった子もいるんでしょう?」


その言葉に思わず反応しそうになってしまい、隣の花子に手を捕まれて口を閉じた。


あたしと聡介のことだ……。


あたしはベッドの上に置いたシューズをジッと見つめた。


2人分のシューズがカーテンの下から覗いていたら怪しまれるからだ。


「でもそれってちょっとドラマチックだよね?」


「わかる! 映画とかになっちゃいそう!」


キャアキャアと好き勝手騒ぐ女子たちにあたしは下唇をかみ締めた。


映画になるような、いい話なんかじゃない。


あたしたちは登校してきてからずっと命の危険に晒されているんだから。


それが女子たちにとって憧れのストーリーになるということが、悔しくて悲しかった。


「っていうか先生? 今日はベッドの使用率高いですね?」


不意にひとりの生徒が言った。


「そうね。みんな、自分友達が商品になったショックで体調が悪くなったりしてるのよ」


「そっかぁ。あたしも友達が商品になったらショックかも」


「一週間人権剥奪だもんね。死んじゃうかもしれないんでしょう?」


「友達が死ぬなんて考えたことないなぁ」


そして保健室の中は沈黙に包まれた。


「逃げ切ってくれるといいな」


誰かがポツリと呟いたのだった。
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