人権剥奪期間
あたしはそれでも呆然として座り込み、テレビ画面から視線をそらすことも忘れていた。


そんな……。


あたしの人生は順調だったはずだ。


親友と呼べる友達がいて、カッコイイ彼氏がいて、好きな芸能人がいて。


イジメとは無縁で、楽しくて……。


それらがガラガラと音を立てて崩れ落ちていく。


一瞬にしてガラクタになる。


あたしは商品に選ばれた。


これから一週間人権を剥奪される。


人権剥奪中はなにをされても反撃してはいけない。


だって、あたしは商品であり、人間ではなくなるから……。


「あ、お母さん！」


妹の声で我に返った。


壊れたロボットみたいにぎこちなく視線を向けると、両親が寝室から出てきたところだった。


妹がすぐにその足にじゃれついている。


「恵美、今日は早いのね」


珍しくテレビの前に座っているあたしを見て声をかける。


「お母……さん」


自分が出した声だけど、自分のものじゃないように感じられた。


「どうしたの？」


いつもと様子の違うあたしを怪訝にかんじたお母さんが近づいてくる。


そしてあたしの顔を間近で見た瞬間息を呑む音が聞こえてきた。
< 9 / 182 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop