人権剥奪期間
食料を確保して保健室へと戻ると、すでに先生はいなかった。


保健室の電気も消されていて鍵もかけられている。


あたしは渡されていた鍵をつかってドアを開けて、そっと中に入った。


12畳ほのスペースに人の気配はなくて、ホッと息を吐き出した。


舞が電気をつけようとしたところ、大志がそれをとめた。


「電気を使うのはやめておこう。懐中電灯があるしな」


大志はそう言って棚の上に置かれている懐中電灯を手に取った。


今はまだ外が明るいけれど、カーテンを閉めている状態なので夜とあまり変わらない。


懐中電灯の光を頼りに聡介の様子を確認してみると、まぶしさで目を覚ましてしまった。


「あれ、俺なんで……」


自分の置かれている状況がうまく把握できていないようで、混乱した声を出す。


あたしは手短に今の状況を説明した。


「そっか。保険の先生が助けてくれたのか」


そう言って上半身を起こした。


まだ体中痛そうだけれど、簡単な手当ては先生がしてくれているから問題はなさそうだ。


「足、大丈夫?」


聞くと、聡介は立ち上がろうとした。


しかしうまく力が入らないようですぐにベッドに逆戻りしてしまった。


「無理はしちゃダメだよ。先生は骨折はしてないみたいだって言ってたけど」


「くそっ。こんなんじゃ逃げられないな」


聡介は悔しそうに顔をゆがめる。


その表情が痛々しくて、あたしは聡介の体を抱きしめた。
< 90 / 182 >

この作品をシェア

pagetop