人権剥奪期間
あたしはドアを両手でゆっくりと開け、木工室の中に誰もいないのを確認してからドアを閉じた。


一歩足を踏み入れると木の香りは鼻腔を刺激する。


掃除し切れていない木屑が床に溜まっているのか、歩くたびにくしゃみが出そうになった。


必死に絶えてなにか武器になるものがないか探し始めたときだった。


隣の木工準備室からガタンッという大きな音が聞こえてきて身がすくんだ。


その場に立ち止まり、口に手を当てて呼吸を繰り返す。


木工教室の中には誰もいなかったが、準備室まで確認はしていなかったのだ。


あたしはゆっくりと後ずさりをしてドアを目指した。


まさか、この奥に誰かがいるなんて考えてもいなかった。


早く出なきゃ。


早く……!


震える足で後退していたとき、準備室のドアが軋みながら開いた。


とっさにしゃがみ込み大きな作業机の下に隠れた。


中から出てきた人物が電気をつけて一瞬目がくらむ。


その人物は大柄な男性教師で、すぐに体育科の先生だとわかった。


どうして体育科の先生がここに……?


息を殺して様子を見ていると、先生が手に何かを持っているのが見えた。


それは真っ赤に濡れていた細長い棒状のもので、先からボトボトと血が滴り落ちている。


棒には布が巻きつけられていて、それがここの学校の制服だとわかった瞬間悲鳴を上げそうになっていた。


あれは一の腕だ!!


そう気が付いたのは先生が一度準備室に戻り、一の生首を持ってきたからだった。
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