セフレのテラダ
テーブルを挟んで男女向かい合って座る。
南さんは真ん中だ。

ふと目の前の男性と目が合う。

30歳くらい?
笑い返してくれた。

なんか、いい人そう。

メガネをしていて、でも顔も悪くはなくて。

彼は前野さんと言った。
31歳。

中肉中背。

可もなく不可もなく。

結婚ってこういう人とするんだろうか。
そう思えそうな人。
こんな人なら、すごく平和な家庭を築けそう。

気付いたら前野さんは私の隣に座っていた。

話はたわいもなくて、全然何を話したのかはさっぱり覚えていない。

話していて楽しいってほどでもない。

でもこの人なら、私は信じられるんじゃないか。

他の女がいるのか、とか、誰にでもこの笑顔見せてるんじゃないか、とか、誰にでも同じこと言ってるんじゃないか、とかそんなことを疑わなくて済む。

不安になることも、きっとない。

どんなにキスしても満たされない気持ちになることも、ない。

レモンサワーを一口呑んだ。

前野さんの目を見る。

私は誰の話をしているの。

前野さんには何を求めるの。

それは愛なの?

「玉山さん、連絡先聞いてもいい?」

前野さんがスマホを取り出す。

「はい、もちろん。」

私もスマホを取り出す。

「あー、前野くん、たまちゃん狙いだ〜」

南さんがこっちを見て大声で言う。
前野さんが照れたように笑う。

ほら、可愛い人じゃん。

あの時。

テラダが私と偶然再会した時をふと思い出した。

合コンでは連絡先を交換することもなく別れたのに、ああやって再会したのは何だったの?

「あの」

隣で前野さんが口を開く。

「恋人いないの?」

私は少し表情を失ってしまった。

「いないですよ。」

合わない焦点。
誰を見ているんだろう。

ねえ、私は誰を見て会話しているの?

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