愛がなくても、生きていける



「わかった」



その時突然聞こえた返事は、あやめの声とは違う。

低くはっきりとした……大迫の声。

驚きしゃがんだまま振り向くと、そこには私の背後に立つ大迫がいた。



「なんで……大迫が?」

「里見に頼んだんだ。どうしても、清水の口からちゃんと話が聞きたくて」



私と仲がいいあやめならどうにかできると思ったのだろう。

じゃあ、あやめからの急な誘いはこのために?

動揺しながらも、全てを知られてしまったなら仕方ないと観念して私は立ち上がる。



「なら今のでわかったでしょ。そういうことだから……小野寺さんが言ってたことは間違ってない」

「あぁ、わかった。けど、納得はできない」

「え……?」



納得はできない……?

その言葉の意味がわからない私に、大迫はまっすぐにこちらを見つめた。



「なんでお前ひとりが苦しまなきゃいけないんだよ。悪いのはお前も奥さんも騙してた相手だろ」

「でも、私だって……」

「好きな人を失いたくなくて、見えないふりすることもある。それでも誰かと一緒にいたいと、愛した自分を否定して押しつぶすなよ」



大迫はゆっくりと近づいて、私の頭をそっと抱き寄せた。



「幸せになる資格とか、そんなの知るかよ。俺は、お前が幸せにならない未来なんていらない」



なんで、そんな優しい言葉をくれるの?

そう思うと同時に、彼の切な想いに涙が込み上げる。



「どうして、そこまで……」

「ずっと心に、清水がいたから」

「え……?」



私が……?

抱き寄せられたまま彼の胸元から顔を上げると、大迫は目を細めて笑う。



「高校の頃ずっとお前のことが好きで、卒業してからも時折思い出してた。けど過去にすることしかできなくて……そんな中でお前と再会して、やっぱり好きだなって思ったよ」

「でも私、あの頃大迫に嫌われてたんじゃないの……?」



避けられていたことを思い出したずねると、大迫は首を横に振った。


  
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