愛がなくても、生きていける



「凛も好きなら好きって言っちゃえばいいのに」

「そうなんだけどさ。なんとなく、機会を逃しちゃってて……」



そう、私の心の中では気持ちはとっくに決まっている。

まだ時々ふと思い出しては幸せになることが怖いときもある。

けれど、彼といるとその不安も溶けてしまうから。

本当は早く伝えるべきなんだろう、けど。



ごにょごにょと煮え切らない答えをする私に、あやめはふと思い出したように言う。



「そういえば、思い出したんだけど。卒業式の前日に、うちの店に大迫が買い物にきたことがあったの」

「え?そうなの?」

「うん。『凛にあげるの?』って聞いたら、顔真っ赤にして黙っちゃって、かわいいよね」



卒業式の前に、大迫が花を……。

それから推測できるのは、下駄箱にひっそりと入れてあったあの小さなブーケは、彼がくれたものだったということ。



「じゃああの花は……大迫から、だったんだ」



誰からかも、気持ちもわからないままだった花。

だけど今こうして、ようやくその答えにたどりつこうとしている。



「ね、凛。後ろ見て」

「え?」



突然あやめに背後を指さされ、振り向いた。

するとそこには、スーツに身を包んだ大迫の姿がある。



「大迫……?」

「驚いたか?里見から凛にサプライズしないか、って提案されて、驚かしに来た」



笑うあやめと大迫の顔を見て、まんまと驚いてしまう。

けれど彼が手にしているピンク色の大きな花束を目にして、驚きが喜びに変わっていった。



あの日と同じ、ピンク色のスターチスの花。

花言葉は『変わらぬ愛』。

その花に想いが今も変わらず込められているのだとしたら。



「改めて言う。好きだ、凛。俺と付き合ってほしい」



あの頃は言えなかった想いを、私も言葉にして伝えよう。






end.
< 116 / 117 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop