愛がなくても、生きていける
「凛も好きなら好きって言っちゃえばいいのに」
「そうなんだけどさ。なんとなく、機会を逃しちゃってて……」
そう、私の心の中では気持ちはとっくに決まっている。
まだ時々ふと思い出しては幸せになることが怖いときもある。
けれど、彼といるとその不安も溶けてしまうから。
本当は早く伝えるべきなんだろう、けど。
ごにょごにょと煮え切らない答えをする私に、あやめはふと思い出したように言う。
「そういえば、思い出したんだけど。卒業式の前日に、うちの店に大迫が買い物にきたことがあったの」
「え?そうなの?」
「うん。『凛にあげるの?』って聞いたら、顔真っ赤にして黙っちゃって、かわいいよね」
卒業式の前に、大迫が花を……。
それから推測できるのは、下駄箱にひっそりと入れてあったあの小さなブーケは、彼がくれたものだったということ。
「じゃああの花は……大迫から、だったんだ」
誰からかも、気持ちもわからないままだった花。
だけど今こうして、ようやくその答えにたどりつこうとしている。
「ね、凛。後ろ見て」
「え?」
突然あやめに背後を指さされ、振り向いた。
するとそこには、スーツに身を包んだ大迫の姿がある。
「大迫……?」
「驚いたか?里見から凛にサプライズしないか、って提案されて、驚かしに来た」
笑うあやめと大迫の顔を見て、まんまと驚いてしまう。
けれど彼が手にしているピンク色の大きな花束を目にして、驚きが喜びに変わっていった。
あの日と同じ、ピンク色のスターチスの花。
花言葉は『変わらぬ愛』。
その花に想いが今も変わらず込められているのだとしたら。
「改めて言う。好きだ、凛。俺と付き合ってほしい」
あの頃は言えなかった想いを、私も言葉にして伝えよう。
end.