愛がなくても、生きていける
◆メモリー
5月も終わりに近づく、穏やかな晴れの日の午後。
会社近くの小さな花屋の店先で、私は腕を組み仁王立ちする。
赤やピンクの可憐な花や、初夏の訪れを感じさせるような爽やかな花。
心華やぐような景色を目の前に、その明るさとは逆に上下黒のパンツスーツに身を包んだ私は険しい顔をしていた。
美しいバラ、かわいらしいガーベラ……どれも幸せの象徴みたいで、本当に気に食わない。
「いらっしゃいませ」
黒いエプロンをつけた、店員であろう女性に声をかけられた。
愛想のない声は熱心に接客をしてきそうにはないけれど、私は思わず逃げるように足早に店をあとにする。
……今日は出直そう。
どれだけ見ても考えても、どんな花がいいかなんてわからないけれど。