愛がなくても、生きていける
「おい中村」
「わっ」
それは同期社員のひとりで、恨めしそうに俺をジロリと見た。
「見てたぞ、お前また女子に誘われてただろ。しかも部署イチの美人の飯田さん!」
「誘われてたって、ごはん行きましょうってだけだよ」
「だけ、じゃねーんだよ!女性から食事に誘われるだけでもえらいことだろ!」
声が大きくなると同時に首に回された腕に力が込められて、首がぐっと絞まる。
「くそ!なんでお前ばっかりモテるんだ、羨ましい!」
「なんでって……そりゃあ、顔じゃない?」
「お前なぁ!!」
茶化すように言って同期の腕から逃れると、俺はそれ以上絡まれないように「経理部行ってきまーす」と足早に部屋を出た。
経理部のオフィスは、俺のいる営業部の部屋から廊下を通って一番奥だ。
そこを目指し歩きながら、先程の同期とのやりとりで乱れたシャツとネクタイを直した。
なんでお前ばっかり、か……。
その問いに対して答えた『顔』という結論は、冗談でもあり、本当のことでもある。