愛がなくても、生きていける
大きな通りにある背の高いオフィスビルに入り、エントランスを通り抜ける。
慣れた足取りで3階にあるオフィスに着くと、私は外していた名札を首に提げた。
『大胡フーズ 飲料事業部営業課 榊初音』
という名前とともに載っている顔写真は、パーマをかけた黒色のミディアムヘアにアイメイクばっちりの猫目。
見るからにキツそうな外見をしていると、自分でも見るたびに思う。
パンプスのヒールを鳴らしながら自分のデスクに向かう私に、オフィス内にいた後輩が気付いたように目を留めた。
「あ、榊さん。外回りおかえりなさい」
「ただいま。今日もいっぱい発注取ってきちゃった」
「さすがうちのトップ営業マン!今月も成績絶好調ですねぇ」
話しながら後輩とともにボードに掲示された今月の営業成績を見ると、そこには私の名前の上の棒グラフが他の社員よりダントツで縦に伸びている。
……けれど、それ以上に伸びているのはその隣にある『井上』という名前のグラフだ。
「……あいつのせいで今月も2位止まりだけどね」
「まぁ、井上さんは社内きってのエースですから。別次元ですよ」
不満げに顔を歪めた私に、後輩は苦笑いでフォローを入れてからふと思い出したように言う。