愛がなくても、生きていける
井上辰巳は、同じ飲料事業部の営業課で働く同い年の同期だ。
性格は明るく優しく、いるだけで場が華やぐようなムードメーカー。
仕事熱心で面倒見もよく紳士的、となれば上司から後輩、取引先まで年齢・性別・立場問わず好かれるような人だ。
そんな彼にとって営業という仕事は天職のようで、毎月のように課内一番の営業成績を叩き出している。
その優秀さはもちろん社内でも有名だ。
私が“男顔負けの営業成績”と言われている一方で、辰巳は“社内トップのエース営業マン”と言われているのだ。
それに加えて170センチ後半の身長と、ほどよく筋肉がつき引き締まったスタイル。そして形のいい二重の目が印象的な整った顔という容姿もあり、女性社員からの人気も高い。
そんな彼と私は、入社後の研修期間からかれこれ6年この営業課で毎日のように顔を合わせている。
入社時のまだわからないことだらけだった時期から、大きな仕事を任されるようになった今まで。
日頃の仕事のフォローから、上手くいかないときには悩みや愚痴を吐き出し合って、ミスをしたときは気が晴れるまで飲みに付き合ったりもした。
つらいときは励まし合って、嬉しいときは分かち合って、6年間を過ごしてきた。
お互いの努力や苦労もよく知っているし、いつも一歩前を行く辰巳に追いつきたくて、私も必死になって仕事を頑張った。
いつしかお互いの呼び名も苗字から名前になって、距離が近づくほどこの心も惹かれていった。