愛がなくても、生きていける
◆きみのために
みんなが別れを惜しみ合い、笑ったり泣いたりしていた高校の卒業式の日。
私は最後まで、彼を目で追いかけるだけでなにひとつ言えなかった。
下駄箱に入っていたピンク色の花の贈り主が誰かなんて気に留める余裕もないくらい。
遠くなる、彼の後ろ姿で胸がいっぱいだった。
よく晴れた5月のある日。
南青山の街にある小さな花屋の前で、私は手にした一眼レフカメラで建物全体をカシャッと写真におさめた。
太陽に照らされた白い外壁と、パッと目を引くオレンジ色のオーニングテント、背景の青空。
全てが狙ったかのようにいい色合いでファインダーの中に美しくおさまっている。
「凛、休憩しない?」
集中して何度もシャッターを切っていると、そう声をかけてきたのはこの花屋の店主……の妻であるあやめだ。
コーヒーを注いだカップを両手に持つあやめに、私は一度カメラを台の上に置き、自分の分のカップを受け取った。
平日昼間の静かな花屋の店内で、ひと口コーヒーを飲むとその温かさにホッとした。
プロのフォトグラファーとして働く最中、実家の花屋を継いだ高校の同級生・あやめから『店のホームページを作るのに撮影をしてほしい』と依頼があったのは数日前のことだった。
高校時代からの仲で、卒業後も度々会っていたけれど、ここ2、3年はお互い忙しくてまともに連絡も取れていなかった。
そんな中であやめから久しぶりに連絡がきたときの報告は驚きの連発で……。
私の隣に立って同じくコーヒーを飲むあやめに、私は口を開く。