愛がなくても、生きていける
つい先日まで付き合っていた恋人から、『大事な話がある』と呼び出されたのは、先月頭のことだった。
取引先の相手で、付き合って二年。
お互いの年齢もあり『結婚』を意識した先でのその言葉に、プロポーズを期待した。
けれど彼から言われたのは
『ごめん、実は俺……結婚してるんだ』
『え……?』
『それで今度子供が生まれることになってさ、だからもうこういうのは終わりにしたいんだ。別れよう』
なんとも身勝手で理不尽な別れの言葉。
好きだった人に裏切られた。
それと同時に、人の家庭を壊そうとしていたことに気がついた。
けれど結局、社内では私と彼が付き合っていることに気づいていた人もいたようで。
『清水が取引先の相手と不倫してた』、と噂が周囲に回るまでそう時間はかからなかった。
結局私は社内での居場所もなくし、上司からのすすめで自主退職することとなったのだった。
それでもフォトグラファーは大切な仕事だったから手放せず、フリーでやっていくことを決めた。
それと同時に、もう誰かといることは望まない。ひとりて生きていこう、とも。
それから私は、あやめの旦那さんや店内の内装など、ホームページの素材に使えそうなものをいくつも撮り、撮影を終えた頃には日が傾き始めていた。
大きな機材用のバッグにカメラをそっとおさめて荷物をまとめる。
「じゃあ写真できたらデータ送るね」
「うん……あ、そうだ。ホームページ作成は大迫に依頼してあるから、そっちにも送ってもらってもいい?」
「え?」
『大迫』。
あやめが不意に口にしたその名前に、耳を留めた。
「大迫って、高校の時同じクラスだった?」
「そう。今SEやってるらしくてさ。この前たまたま会ったときに、格安で引き受けてくれることになったの」
そう言いながらあやめは、大迫のメールアドレスをメモに書き写し手渡す。
私はそれを受け取りながら、彼のことを思い出した。
大迫、か……。
その名前に浮かぶのは、切れ長の奥二重と高い鼻が印象的な、涼しげな顔の彼。