愛がなくても、生きていける
大迫耀という彼は、あやめと同じく私の高校時代の同級生だ。
サッカー部のエースで薄めの顔のイケメン、でも愛想も悪くて口も悪かった。
陸上部に所属していた私は、同じグラウンドを使うことからよく大迫とも話していたけれど、いつも売り言葉に買い言葉ばかり。
まるで同性のような色気のないやりとりしかできなかったけれど、それなりに仲がよかった。
けどあることから距離を置いたまま、卒業して以来一切連絡を取っていない。
彼も同じように歳をとっているはず。
きっと結婚して子供もいて、私の何歩も先を歩いているんだろうな。そう思うと、切なくなる。
「りんちゃあーん!」
あやめと話していると、花乃ちゃんがたどたどしい足取りで駆け寄ってきた。
その小さな手には一輪の花が握られている。
「どうしたの?」
「どーじょー!」
どうぞ、と花乃ちゃんが差し出す花に、あやめの方を見る。
「花乃からのおみやげだって。来てくれてありがとう、って言いたいんだよね」
いつもは涼しい目をしたあやめがにこりと微笑むと、花乃ちゃんが大きく頷く。
「いいの?もらっちゃって」
「うん。もらって」
あやめもそう言ってくれるのなら、と私は花乃ちゃんから花を一輪受け取った。
それから帰宅した私は、自宅の二階にある自室で今日撮影したデータをパソコンで確認していた。
「今日天気もよかったから、どの写真も光がいい具合に明るくていい感じ」
画面に映る店先の花の写真からなにげなく視線を上げると、棚上には小さな花瓶にさした花乃ちゃんからもらった花がある。
ピンク色の小さな花びらの花。
この花、どこかで見覚えがあると思ったら……高校の卒業式の日に誰かがくれたお花と同じだと思い出した。
卒業式の朝、下駄箱を開けたらこの花で作られた小さなブーケが入っていた。
差出人も、なんの意図で入れられたかもわからないままの花。
彼からだったらいいのに、なんて思いながら、現実はその日も一度も目すら合わなかった。
……なんて、今更想いを馳せたところでどうなるわけでもない。
私はすぐ現実へと戻ると、ふたたびパソコンの画面と向き合う。
そして撮影したものの中でも使えそうな素材やいいものをいくつかピックアップし、ファイルを作成する。
できた。あとはこれを大迫宛に送るだけ。
少し緊張しながらも、指先で一文字一文字彼のアドレスを打ち込む。