ちいさなことばをひろいあつめて【短編集】
「あんたもえらいねぇ。
家計を助けるために奉公にあがるなんてぇ」

「んーまぁそれもあるけど…。
やっぱり他所の土地に行ってみたいじゃない。
一生村の中で過ごすのなんて窮屈だしさ」


 のどかな田園風景と同じようにのんびりとした老人の声にガーネットはつられてのほほんと返した。


 ガーネットの生まれ育った村は山と海とに囲まれた小さな土地で近くに大きな町など無い。

 殆どの者がその村で一生を過ごす。

 それがその土地の人間の「当たり前」で「摂理」に近い。

 そんな価値観に唯一疑問を持ったのがガーネットだ。

 目に見えた『生涯』というものに違和感を感じて家族を半ば押し切る形で村を出た。
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