ちいさなことばをひろいあつめて【短編集】
 真上にあった太陽もだいぶ西に傾いたところでようやく目的地である屋敷の近くへとたどり着いた。

 目の前に鬱蒼と茂った木々の合間に小さな坂道が見える。

 奉公にあがる屋敷はこの坂道を登り頂上にある。

 ここからは道幅も狭く坂ともあって老いた馬の馬車では登れないのでガーネットは老人に送ってくれたお礼を述べると大きな革鞄を握り締め山道へと分け入った。


 思えば村を出てからまだ三日しか経っていないがずいぶんと長い旅をしてきた気がする。

 だがまだ三日、それにここが旅の終着地ではない。


「そう、ここから始まるんだもんね」


 決意に近い感情が自然と言葉となって口を突いて出てきた。

 その言葉通りこれからが始まり。


 きっと楽しいことも辛いことも嬉しい事も悲しいことも沢山あるだろう。

 だけどそれら全てが自分の思い出になり財産になるはずだ。


 ガーネットはそう思いを馳せると大きく、新しい一歩を踏み出した。
< 84 / 87 >

この作品をシェア

pagetop