白豚王子育成計画〜もしかして私、チョロインですか?〜
毎日の入浴は、日本人たるものエチケットとしての基礎である。
ていうか、毎日お風呂に入れるのに入らないとは、なんて贅沢者か。入院してたら、ろくに湯船になんて浸かれないんだぞう。そもそもシャワーですら、少しでも熱があれば許されないんだから……。
なんて前世の愚痴はさておいて、この王族専用の浴場を見て、私は言いたい。
「ひ、広いですね……」
「だろう? だから僕、お風呂が嫌いなんだ」
なんとやっぱり予想通り、この白豚王子はろくに風呂に入っていなかった。
「ででで、でも、毎日きちんと体は拭いていたんだよ?」
「でも臭かったら意味ないじゃないですか」
「ぼ、僕……臭かったの……?」
おいおい、誰も指摘――出来ないか。第一位王位継承者である王子様だもんね。白豚であっても。
しょげる王子になぜか私が罪悪感に苛まれるものの、将来の明るい未来のために、私は心を鬼にする。
「湯船に浸かることで、新陳代謝も上がりますし、デトックスも捗ります。暑いとか疲れるとか言うのかもしれませんが、ダイエットにも美容にもとても効果的で――――」
「グフフ、リイナは難しい言葉を知っているね……」
「…………はぇ?」
し、しまったああああああ!
イケメン然り、新陳代謝とかデトックスとか、現代の医療や美容用語はこの世界に浸透していないんだった! 言葉自体は『リイナ=キャンベル』としての十五年間が身体に染み付いているせいか、何も問題がないにしろ、どうにも俗世との文化の違いがふとした所で溢れてしまう。
だけど、それも咳払いで誤魔化すしかなく、
「えぇ……いいですか? どんなに忙しくても、朝晩の二回は必ず顔を洗って下さい。そして、一日一回は最低、この城から私の屋敷を往復する時間くらいは、浸かって下さいね!」
「そ、そんなぁ?」
今にも膝を付きそうなほど絶望するエドワート様に、私は思わず眉をしかめた。
「そんなにお忙しいんですか?」
「いや、そうじゃなくて……」
「そうじゃなくて?」
私は首を傾げると、彼は震えた声で呟いた。
「そそ、そんな長い時間一人とか……さ、寂しくて死んじゃうよ……」
「はい?」