白豚王子育成計画〜もしかして私、チョロインですか?〜
――なんて油断していた私が悪かった。
「ねぇ、リイナ。早くして? ゆゆ、湯冷めしちゃうよう」
「ででで、でしたら、御自身で塗ればいいのでは?」
腰にはタオルが巻いてある。それでも、半裸の目を閉じた男の顔を真ん前にして、平常心でいられるほど私の前世に経験はない。
あれから三日。私の手には、本当にすぐにエドワード様が用意してくれたココの実から出来たオイルの小瓶があった。その名の通り、匂いは南国の似合うココナッツ。「では、これを顔に塗ってください」と言ったら、この白豚王子はこんな暴挙に出たのだ。
「ででで、でも……どこにどうやって塗ればいいのか……僕わからないよ」
「で、でしたら介助の方に頼めばいいのでは?」
「彼女たちも塗ったことないって」
「そんなぁ……」
周りのメイドさんたちに助けの視線を送っても、シレッと逸らされる。おかしいなぁ。そんな嫌われているというより、歓迎されている感じだったんだけどなぁ。
「ね、リイナ。リイナが僕を『いけめん』に育ててくれるんだよね?」
そして「僕、頑張るからさ」なんて珍しく吃らず言われてしまえば、私も女だ。観念してオイルをすくった手を伸ばし、王子の柔らかい頬に触れる。
すると、王子はグフフと嬉しそうに笑って、
「いつかこの手にお礼させてね」
手を重ねられると、私は叫び出したいのを堪えるだけで、手が震えてしまった。