白豚王子育成計画〜もしかして私、チョロインですか?〜
そうして、いよいよ私は美容やダイエット、ならびに健康の礎である食生活の見直しに取り掛かることにしたのだが――――
「正直、これがとても難しいんだよねぇ……」
私は屋敷まで送り届けてもらった後、用意されていた朝食をつつきながら愚痴る。
「どうした、リイナ? また具合でも悪いのかい?」
対面に座るのは、『リイナ』と同じ桃色の髪が可愛らしいダンディなオジサマだ。立派な髭が特徴の父親からの心配に、私は笑みを作って首を振った。
「そんなことないですよ。ただ――――」
私はクリーミィなリゾットをかき混ぜながら答える。
「もう少し、あっさりしたものが食べたいなぁって」
これでも、食については結構ワガママを言わせてもらっているのだ。このリゾットだって、私が「お米が食べたい」と言ったから、わざわざ宰相の権力と財力で取り寄せてもらい、作ってもらったものである。このランデール王国は、パンやパスタなど、小麦が主食の国なのだ。
正直私が求めているのは『お米』というより『和食』なのだが、この西洋感たっぷりな国で、叶えられるわけもなく。
「すまないね、リイナ。でも、少しでもいいから食べておくれ。リイナがまた具合悪くなったらと思うと……」
「大丈夫です、お父様! 私、もうこんなに元気ですから!」
私はバクバクとリゾットを掻き込み、ベーコンをパクリと食べた。控えているメイドさんがやたら驚いた顔をしているから、やっぱりはしたなかったのかもしれない。
それでも前世といい、今といい――親にこんな悲しい顔をさせるのは、もうウンザリ。
親になったことはないものの、それでも知っていることがある。
具合の悪い子供には、早く元気になって欲しい。
『苦しい思いをさせてごめんね』
『代われるものなら、代わってあげたいのに』
そんなことを、私は何度言われたことだろう。
もちろん親を恨むつもりはない。私だって両親のことは大好きだった。
だからこそ、悲しい想いをさせたくなくて。
だけど、私だって好きで病気になっているわけでもなくて。
そのやるせなさをぶつける相手も、親しかいなくて。
その度に『ごめんね』と一緒に返ってくる悲しい笑顔は、どんな世界でも、どんな偉い貴族だろうとも――変わらないことを、私は知った。
そして、どんな世界の親であろうとも、子供の健康が第一らしい。
「まったく……元気なのはいいが、もう少し上品に食べれんのか」
そんな苦言も、父親は泣き出しそうなくらい、嬉しそうで。
「お肉、美味しいかい?」
――本当はあなたの『リイナ』ではないんだけど……。
そんなこと言えるはずもなく、改めて聞いてくるお父様に「はい!」と笑い返すものの、胸の奥は棘が刺さったように痛かった。