白豚王子育成計画〜もしかして私、チョロインですか?〜


 食事を抜くことは許されない。

 エドワード王子の親。つまりは国王陛下と女王陛下にはお会いしたことがないものの、そんな親心は一緒のはず。誰かに心配されるダイエットなんて不毛だ。

 雑誌だと豆乳がいいとか、蕎麦がいいとか、あやしいドリンクやサプリメントが載っていたけど……正直信憑性ないもんね。そもそも豆乳や蕎麦がこの世界にあるかも怪しいし。

 というか、そもそもあの白豚王子がどんな食生活を送っているのか、私は知らない。
 だから、とりあえず調べてみることにした。

「本人に聞いて、嘘吐かれるのも癪だしね」

 いい加減、深窓の令嬢として小鳥と「うふふ」するのも飽きていたし、私はひっそりこっそり、城の厨房裏へとやってきた。

 本来ならば王子の婚約者とはいえ、あまり一人で城内を彷徨くのは宜しくない。だからひっそりこっそり。裏から厨房の様子を伺えないかなぁ。あわよくば、下っ端の見習いさんに王子の食事メニューとか聞けないかなぁ、なんて思ったり。

 そんなこんなで、樽とか並んでいる物陰にしゃがみこんで、裏口をこーっそり伺っていると、

「お嬢ちゃん、何してんの?」

 肩をトントンと叩かれて振り返ると、思わぬ顔に私は尻もちをついてしまった。

「あああああなたは?」

「奇遇……でもないな。君は王子の婚約者なんだ。俺の方が不自然か」

 軽やかに「ははは」なんて笑う塩顔の少年に、見覚えがあった。今は爽やかにコックコートを着ているものの、以前会った時はもっと粗暴な格好をしていて。

「あの時の焼きおにぎりっ⁉」

「もうちょっと他の覚え方はなかったのかい?」

 彼は芋の入った籠を置いて、辺りを見渡す。

「俺の名前はショウっていうんだけどね。でも立ち話もあれかな。王子か付添の人は? 御令嬢が見習いコックと話しているなんて、体面が良くないだろ?」

 なんか色々と気を使ってくれているのは有り難いが、待ってほしい。とりあえずついていけてないから待って。私は正直、頭良くないんだよ。

「そのこめかみに指当てているのは癖? 可愛いな」

「考えているんだから、ちょっと待って下さい」

「はいはい……でも俺が説明した方が早くないか?」

 ショウと言った彼は木箱に腰掛け、芋を片手に話し出す。

「って言っても、そんなに話すこともないんだけど。俺のいた一団はほぼ全員捕らえられたんだけど、俺だけ特例として見習いコックとして雇ってもらえたんだ」

「見習い……?」

「そうそう。まぁ、正確には服役中として働かされている――ていう体みたいだけど。どのみち賊にも、身売りされて身を置いていたにすぎない俺としては、有り難い話さ」

 そう話しながら、彼はまたたく間に芋の皮を剥いていって。「話しながらゴメンな。ノルマキツくてさ」なんて言いながらも、彼は楽しそうに手を動かしていた。

 そんな状況に唖然としていると、ショウはクツクツと笑ってくる。

「それにしても、お嬢ちゃんも肝が据わっているな。叫びもしなかったしさ。俺のこと怖くないのか?」

「いやぁ、焼きおにぎりの印象しかなかったもので」

「そんなに食べたかったんだ」
< 16 / 76 >

この作品をシェア

pagetop