白豚王子育成計画〜もしかして私、チョロインですか?〜
鼻で笑った彼は(失礼な)、ゴソゴソと籠の中を漁り、「今はこんなものしかないけど」と籠の中から取り出したのは、ヤシの実みたいな固い素材の水筒のようなものだった。
「熱いから気をつけて」
彼はその中身を、蓋をコップ代わりにして注ぐ。それから立ち上がる香りに、私は思わず「わぁ!」と目を見開いた。
とても懐かしい匂いだった。少し香ばしくて、でも優しくて。私は日本人なんだなぁとしみじみしてしまう香りに釣れられて覗くと、そこにはやっぱり地味な茶色の液体。具はシンプルに煮崩れたお芋だけ。それでも、だからこそ久々の和の心が騒ぎ出す。
「こ、これ……飲んでいいの?」
「どうぞ」
震える手を必死に抑えて、私はお味噌汁を一口。味の深みはない。質素な味。それでも、涙が出そうになるのはどうしてだろう。
「美味しい……」
「そりゃあ良かった。今度ちゃんと焼きおにぎりも食わせてやろうな」
「ありがとう」
あぁ、なんかこのまま死んだら――困るけど、それでもそう言いたくなるほどの幸福感に一口、また一口とズズズと啜って。
ぷふぁ~と一息ついてから、私は我に返る。
「でも、なんでお味噌が?」
「俺が作ったから」
その簡潔な返答に、私の目はまばたきを増やす。
「婆ちゃんがそういうの好きでさ。俺も前世で専業主夫してたし、娘と遊びながら色んなもの作ってたんだよ」
「この世界でも簡単に作れるものなの?」
「まぁ、味噌も醤油も大豆を発酵させたものだからなぁ。俺、特殊能力として菌を増殖させられる力持っているし。数日で作れるんだよ」
「特殊能力?」
あっさり気軽に話してくれるものの――まるでついていけない。
前世? 専業主夫? 子持ち? そして特殊能力って、ラノベ主人公のチート能力的なあれですか?
色々出てきた単語を一つずつ噛み砕いて、器を返しながら推察するに、
「あなたも……転生者?」
「そうそう。やっぱりきみも、か」
その容器をまた籠の底に隠しながら「カマをかけて良かった」と笑うショウに、私は「はぁ?」と呆れるしかない。
「なにそれ……それ、私が違ったらどうするつもりだったの?」
「別に、元盗賊が変なこと言ってるなーで終わるだけだろう? 誤魔化しようなんていくらでもあるさ」
あっけらかんと言っては、
「でも勝算はあったんだよ。『日本人』の感覚がなきゃ、今もこんな薄い味噌汁を美味そうに飲んでくれないだろう?」
なんて付け加えつつ、彼は再び芋を剥き出した。
え? 何こいつ。
一瞬仲間を見つけたとぬか喜びをしたけれど、この人性格悪い?
でも盗賊に捕まった時も優しくしてくれたような気がするし。焼きおにぎりだし。お味噌汁だし。
私が頭を抱えていると、ショウは何がそんなに楽しいのか。大笑いした後、彼は目に浮かんだ涙を拭っていた。
「はは、ごめんごめん。お詫びに何でもするからさ。多分、きみよりもずっと早く前世の記憶戻っているし、色々役に立てることもあると思うんだ」
ものすごーく信用したくない流れの申し出だけど。
それでも、どうして私がこの場にいるのか。その本題にはものすごく有り難い申し出には変わりなくて。
「……エドワード王子の食生活について、知っていること教えてほしいんだけど」
恐る恐る尋ねると、シュウは目を丸くした。
「ん? そんなことでいいのか?」
「そんなことって……」
「あー……まぁそうだよな。貴族の家に転生したなら、何一つ不自由ないもんな」
「熱いから気をつけて」
彼はその中身を、蓋をコップ代わりにして注ぐ。それから立ち上がる香りに、私は思わず「わぁ!」と目を見開いた。
とても懐かしい匂いだった。少し香ばしくて、でも優しくて。私は日本人なんだなぁとしみじみしてしまう香りに釣れられて覗くと、そこにはやっぱり地味な茶色の液体。具はシンプルに煮崩れたお芋だけ。それでも、だからこそ久々の和の心が騒ぎ出す。
「こ、これ……飲んでいいの?」
「どうぞ」
震える手を必死に抑えて、私はお味噌汁を一口。味の深みはない。質素な味。それでも、涙が出そうになるのはどうしてだろう。
「美味しい……」
「そりゃあ良かった。今度ちゃんと焼きおにぎりも食わせてやろうな」
「ありがとう」
あぁ、なんかこのまま死んだら――困るけど、それでもそう言いたくなるほどの幸福感に一口、また一口とズズズと啜って。
ぷふぁ~と一息ついてから、私は我に返る。
「でも、なんでお味噌が?」
「俺が作ったから」
その簡潔な返答に、私の目はまばたきを増やす。
「婆ちゃんがそういうの好きでさ。俺も前世で専業主夫してたし、娘と遊びながら色んなもの作ってたんだよ」
「この世界でも簡単に作れるものなの?」
「まぁ、味噌も醤油も大豆を発酵させたものだからなぁ。俺、特殊能力として菌を増殖させられる力持っているし。数日で作れるんだよ」
「特殊能力?」
あっさり気軽に話してくれるものの――まるでついていけない。
前世? 専業主夫? 子持ち? そして特殊能力って、ラノベ主人公のチート能力的なあれですか?
色々出てきた単語を一つずつ噛み砕いて、器を返しながら推察するに、
「あなたも……転生者?」
「そうそう。やっぱりきみも、か」
その容器をまた籠の底に隠しながら「カマをかけて良かった」と笑うショウに、私は「はぁ?」と呆れるしかない。
「なにそれ……それ、私が違ったらどうするつもりだったの?」
「別に、元盗賊が変なこと言ってるなーで終わるだけだろう? 誤魔化しようなんていくらでもあるさ」
あっけらかんと言っては、
「でも勝算はあったんだよ。『日本人』の感覚がなきゃ、今もこんな薄い味噌汁を美味そうに飲んでくれないだろう?」
なんて付け加えつつ、彼は再び芋を剥き出した。
え? 何こいつ。
一瞬仲間を見つけたとぬか喜びをしたけれど、この人性格悪い?
でも盗賊に捕まった時も優しくしてくれたような気がするし。焼きおにぎりだし。お味噌汁だし。
私が頭を抱えていると、ショウは何がそんなに楽しいのか。大笑いした後、彼は目に浮かんだ涙を拭っていた。
「はは、ごめんごめん。お詫びに何でもするからさ。多分、きみよりもずっと早く前世の記憶戻っているし、色々役に立てることもあると思うんだ」
ものすごーく信用したくない流れの申し出だけど。
それでも、どうして私がこの場にいるのか。その本題にはものすごく有り難い申し出には変わりなくて。
「……エドワード王子の食生活について、知っていること教えてほしいんだけど」
恐る恐る尋ねると、シュウは目を丸くした。
「ん? そんなことでいいのか?」
「そんなことって……」
「あー……まぁそうだよな。貴族の家に転生したなら、何一つ不自由ないもんな」