白豚王子育成計画〜もしかして私、チョロインですか?〜
 芋を剥く手を止め、一人で「そうかそうか」という何かに納得している。その態度にイラつく胸の内を吐き出す前に、彼は再び口を開いた。

「あの王子、そんな過食ってわけでもないと思うぞ。皿洗いは俺の担当なんだけど、特別多いわけでも、油で汚れているわけでもない。特別にメニューをあつらえているって話も聞かないしな」

 そう言った彼は「だから体質なんじゃない?」とあっさりと結論づけてしまう。

 うわ……彼の言うことが真実なら、厄介なことこの上ないじゃないか。

「それは困ったなぁ」

 私が思わず吐露すると、ショウは「ん?」と首を傾げてから、また一人で解決したようだ。

「あーそうか。王子のダイエットを手伝っているんだっけ?」

「なんであなたが知っているの?」

「なんでって、有名な話だぞ? 毎朝王子と婚約者が仲睦まじく散歩しているって。話の流れ的に、ダイエット目的なんだろう?」

「まぁ、そうだけど……」

 仲睦まじく……まぁ、婚約者同士なんだし、そう見られたところで問題はないんだけど……そうか。あの白豚と仲良く見えるのか……。

 何とも言い難いモヤモヤに胸を押さえていると、ショウはまた手を動かしだす。

「噂では、病み上がりの婚約者様の健康のためってなっているけどね。王子様の体面も保つ良妻ぷりだと、きみの評判もうなぎのぼりさ」

「あまり嬉しくないです」

 率直に感想を述べると、ショウはまた楽しそうに笑う。だけど今度は私の渋い顔に気づいてか、咳払いをした。

「痩せやすい食生活なら、低GIとかどうだ?」

 そして提案してきたことに、私は再び目を丸くする。すると私が何か聞くよりも早く、ショウが説明し始めた。

「聞いたことくらいはあるだろ。血糖値が上がりにくい食材を選んで摂取するダイエットのことだな。米よりそばやパスタ。パンでもあまり精製されてない麦パンにするとか」

 うん。それなら雑誌でも見たことがある。『白いものより黒いものを食べろ!』て書いてあったあれだ。確か『集中力も増してお仕事の能率もアップ! これで気になる彼にも見直されちゃおう?』とかとも書いてあった気がする。

「まぁ、あとは高タンパクなものを摂るとかかなぁ。卵白のオムレツとか、サラダに鳥のササミもトッピングするとか。出来れば運動後にプロテイン飲むのが手っ取り早いんだけど、この世界じゃそういうわけにもいかないしな」

「なるほど。詳しいね」

「昼過ぎの情報番組で、そういうの見てね。あと嫁さんが医者だから、そういう話題を振ると小難しく返ってきたりするんだよ」

 料理上手の主夫。子持ち。奥さんは女医。

 本当ならなかなか出会えない、出会ったところで何を話したらいいかわからない相手から、これ以外にも様々なダイエット食について教えてもらった。

 有り難い情報提供に、ひとまず「ありがとう」と感謝を述べる。
 うん。この人とは転生者同士、これからも程よく仲良くするとして。

 とりあえず目先の問題としては、

「でも、それをどうやって王子にやってもらったらいいのかなぁ」

「そんなの簡単じゃないか」

 そして耳打ちされたことに私が「マジで?」と聞き返すと、

「男なんて、そんなもんだ」

 と、ショウはケラケラと笑っていた。

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