白豚王子育成計画〜もしかして私、チョロインですか?〜
「というわけで、心身ともに疲れているので美味しいものを恵んでください」
「すごく今更だけど。足繁く俺の所に通ってて大丈夫なのか?」
「だってエドもひどいんだよー。『僕の足は肉厚だから、これくらい何ともないよ。大袈裟に反応しちゃってごめんね』なんて言いつつ、お風呂場で見たら足が痣だらけなんだも……もう罪悪感が、罪悪感が……」
「人の話は無視するわけね。しかしまぁ相変わらず一緒にお風呂とか、仲良いこって」
「今はそういう話じゃない」
「あーさいですか」
そう言いながら、いつもの厨房裏でショウが出してくれる前世の逸品。
薄布を広げるとそこには――――
「おはぎだぁ!」
「芋粉で作ったから、風味が強いけどな」
きなこのおはぎ。お見舞いに来てくれたおばあちゃんが、たまにこっそり持ってきてくれたものに、それはよく似ていた。少しクタッとしたそれを摘み上げると、ほのかに甘い匂いがする。頬張ると、たしかに記憶の中の味とは違う丸い風味に思わず「ふふ」と笑うと、ふわっときなこの粉が舞う。
「何だよ。不味かったか?」
それに私は咀嚼し終えてから、首を振った。
「そんなことないよ。これはこれで、すごく美味しい。緑茶が飲みたくなるね」
「あ、それわかる。でもこの国の茶葉が全部発酵させてるんだよなぁ」
そんな談笑とおはぎに舌鼓していると、突如ショウが切り出す。
「きみ、王子に転生したこと話したの?」
「いやいや、まさかまさか!」
私が慌てて否定するも、ショウは真面目な顔を崩さない。
「下手なこと夢みて暴露するとか、やめとけよ。おとぎ話じゃ世界を平和へ導く的な綺麗事並べているが、実際は普通に戦争してでも手に入れたいものだからな」
「戦争って……」
急に出てきた物騒な言葉に私はたじろぐも、ショウは真剣だ。
「数ヶ月生活して十分わかるだろう? 魔法でちょろまかしている所も多々あるが、『現代』に比べれば、基本的にこの世界の文明は何世紀も前のものだ。きみとしては些細な知識かもしれないが、それが大きな金を生む可能性を秘めている。そんな知識の元を手に入れようと……争いが起きてもおかしくない」
確かに。言われてみれば、そうかもしれないけど……。
その話に私が何も言えないでいると、ショウはようやく笑った。
「まぁ、そういうわけで。きみは今まで通り気楽でワガママな令嬢生活を満喫すればいいよ。霊人なんて、一人いれば十分だろうしな」
――ん? それってどういう……?
私が尋ねようとした時、「リイナ様!」と呼ぶ声に、私は振り向く。そこには、いつもエドのそばにいる近衛兵さん。いつも帰りの馬車の手配をしてくれているのだが、
「あれ? 今日は父の仕事が終わってから、一緒に帰宅する予定なのですが?」
「あ、いえ。エドワード殿下からの言付けでございます」
私が「なんでしょう?」と小首を傾げると、近衛兵さんは少し言いづらそうにしていた。
「しばらく朝の散歩は中止にしよう――――とのことです」